「可哀想な人だね」
「あの子、ほんとにかわいそうだったよ」
日常会話の中で、私たちは「かわいそう」という言葉をよく使いますよね。
目の前で誰かがつらい目に遭っていたり、テレビで不幸なニュースを見たりしたとき、自然と出てくる言葉です。
ところが、文章でこの言葉を書こうとすると、こう思う人も多いのではないでしょうか?
「“可哀想”と“可愛そう”ってどっちが正しいの?」
「漢字の意味からすると“可愛そう”の方がしっくりくるけど…」
「最近は“可愛そう”もよく見かけるけど、間違いなのかな?」

目次
結論:「可哀想」が正しい表記
まず結論から申し上げると、正式・正確な表記は「可哀想(かわいそう)」です。
現代の国語辞典や公的文書でも
- 小学館『大辞泉』:可哀想
- 三省堂『新明解国語辞典』:可哀想
- 文部科学省や新聞・報道機関の表記基準:可哀想
つまり、「可哀想」が正規表記であり、「可愛そう」は誤用とされています(※後述の「表記ゆれ」は例外的扱い)。
「可哀想」の意味と使い方
「可哀想」意味
- 他人の不幸や苦しみ、みじめな境遇などに対して、同情や哀れみの気持ちを持つこと
- または、そのような気持ちを引き起こす対象を指す
「可哀想」使い方の例
- 捨てられた犬が道端にいた。可哀想で見ていられなかった。
- 試験に落ちた彼女を可哀想に思った。
- あんなに一生懸命頑張っていたのに、可哀想だよね。
なぜ「可愛そう」と書いてしまうのか?
「可哀想」が正しいとわかっていても、「可愛そう」と書いてしまう人も少なくありません。
その理由を考えてみましょう。
「可愛そう」と書いてしまう理由1. 音が「かわいい」に似ている
「かわいそう」と聞くと、「かわいい(可愛い)」と同じ語源に聞こえるため、つい「可愛そう」と書いてしまうのです。
→ これは音のイメージに引っ張られた誤用です。
「可愛そう」と書いてしまう理由2. “愛”がある方が同情っぽく感じる
- 「哀れ(哀)」=暗くネガティブなイメージ
- 「愛」=優しさ・思いやり
このように、“愛”という字が含まれている方が「かわいそうな気持ち」に寄り添っているように見えるため、感覚的に「可愛そう」を使ってしまう人が
多いのです。
「可愛そう」と書いてしまう理由3. SNS・ネット文化での表記ゆれ
Twitterやブログ、YouTubeコメントなどでは、「可愛そう」という表記もよく見られます。
これは、
- 誤用が広がっている
- 変換ミス
- 敢えて砕けた言い回しを選んでいる
などの理由が考えられます。
「可哀想」の語源・成り立ち
この言葉は、実は「かわいそう」→「可哀相」→「可哀想」と変化してきました。
「可哀相」→「可哀想」へ
「哀相(あいそう)」という言葉が古くからあり、「哀れな様子、みじめな姿」を意味していました。
- 可哀相(=哀れむに値する相(すがた))
- 可哀想(=哀れむに値する想い)
このように、「可哀想」は「相(すがた)」から「想(こころ)」へ移行した表記であり、現代では「想」のほうがより感情的なニュアンスを持ちます。
「可愛そう」は間違い?表記ゆれとして容認されることもある?
基本的には「可哀想」が正しいのですが、「可愛そう」という表記も一部で使用されることがあります。
ただし、それは以下のようなケースに限られます
1. 会話体の表現(ややくだけた表現)
- 子どもや若者のセリフとして表現に柔らかさを出したいとき
- 読者との距離を縮めるカジュアルな文章(小説やブログなど)
例
「あの猫、すっごく可愛そうだったよ」
→ 書き言葉としては誤用だが、感覚的には伝わる
2. ネットスラング・非公式な文体
- 「可哀想」だと重すぎる場面で、あえて柔らかく書くための工夫
- 可愛いと哀れの混合感情(ユーモラスな使い方)
文法的な違いと注意点
表記 | 正誤 | 用例 | 適した文体 |
---|---|---|---|
可哀想 | 正式 | 彼女は可哀想だった | 公的文書、新聞、学校の作文など |
可愛そう | 誤用(表記ゆれ) | 子犬が可愛そうだったね | 会話、SNS、小説の会話文など |
かわいそう | ひらがな | かわいそうな話を聞いた | 幼児向け、柔らかい印象を出したい時 |
関連語との違い・使い分け
表現 | 意味 | 違い |
---|---|---|
哀れ(あわれ) | みじめで悲しいさま | より強くネガティブ |
同情(どうじょう) | 他人の不幸に心を寄せること | 客観性が高い |
憐れむ(あわれむ) | 上から目線になりやすい言葉 | 古風な表現が多い |
かわいげ | 可愛らしさ、愛嬌 | 「かわいい」に近い |
書き言葉・話し言葉での使い分け
場面 | 適切な表現 |
---|---|
ビジネス文書 | 可哀想(または「同情する」「気の毒」) |
新聞・報道 | 可哀想(もしくは「哀れな」「悲惨な」) |
小説・エッセイ | 可哀想/可愛そう(文体により使い分け) |
会話・SNS | かわいそう(ひらがな)/可愛そう(柔らかい表現として) |
まとめ:「可哀想」が基本。文体に応じて柔軟に使い分けを
表記 | 正式 | 用途 | 注意点 |
---|---|---|---|
可哀想 | ◎ | 正しい表記、公的文章にも適用 | 基本的にはこれ一択 |
可愛そう | △(誤用) | 会話・SNSで表現の柔らかさを出す場合に限り | 公式文書では避ける |
かわいそう | ○ | 幼児向け表現や文体をやわらかくしたいとき | 誰にでも伝わるが文章の品格はやや下がる |
おわりに
「可哀想」と「可愛そう」は、同じ音でありながら、正しい表記と誤用という違いがあります。
しかし、その背景には日本語の表記の柔軟さや、感情の伝え方への工夫があることも確かです。
正式には「可哀想」を使うのが正解ですが、文体や場面によっては「可愛そう」と表記することでニュアンスの変化や柔らかい印象を出すことも可能です。
言葉は「意味」だけでなく、「感じ」も大切です。相手や読者にどう伝えたいかを意識しながら、正しく、美しく、そしてやさしく使っていきたいですね。