日本語には、同じ読み方を持ちつつ、異なる漢字で書かれる言葉が数多く存在します。
その中でも特に使い分けが難しいのが、「覚える」と「憶える」です。
「英単語をおぼえる」「彼の顔をおぼえている」「不安をおぼえる」など、どれも「おぼえる」と読む言葉ですが、これらの文において、どの漢字を使うのが正しいのでしょうか?

目次
「覚える」の基本的な意味と使い方
「覚える」の主な意味
「覚える」は以下のような意味で使われます。
記憶する/暗記する
例:英単語を覚える、顔を覚える
体で身につける(経験的に)
例:技術を覚える、自転車の乗り方を覚える
感情や感覚を持つ
例:痛みを覚える、違和感を覚える
つまり「覚える」は、「知識として記憶する」「行動や技能を身につける」「何かを感じる」という広い意味で使われ、使用頻度も非常に高い漢字です。
「憶える」の基本的な意味と使い方
「憶える」の主な意味
一方で「憶える」は、感情的な記憶や印象に残っていることを指して使われます。
- 過去の出来事を思い出す
例:昔のことを憶えている
- 特定の感情と結びついた記憶
例:悲しい記憶を憶えている
「憶」は「記憶(きおく)」や「憶測(おくそく)」などにも使われるように、脳内に留めているイメージや記憶そのものを意味します。
そのため、「憶える」は、どちらかというと感情や心象に紐づく記憶に使うのが自然です。
漢字としての成り立ちの違い
覚(おぼえる)
「覚」という漢字は「目」と「見えるものを記録する」という意味の部首を持ち、見て覚える、感じて身につけるというニュアンスが込められています。
体験や感覚を通して得るものに使われるのが特徴です。
憶(おぼえる)
「憶」は「心+意(おもい)」から成り立つ漢字で、心の中に留まっている思い・記憶を表す文字です。
よって、外部の事実というより、内面的な記憶・感情と結びつく記憶に対して使われます。
実際の使い分け:どちらを使えば正しい?
実は、現代の日本語では「覚える」に統一されているケースが非常に多いです。
学校教育や新聞、行政文書などでは、「憶える」よりも「覚える」が基本です。
ただし、文学作品やエッセイ、表現にニュアンスを持たせたい時には、「憶える」があえて選ばれることもあります。
「覚える」が使われるシーン(一般的・広義)
- 英単語を覚える
- 顔を覚える
- 感覚を覚える
- 技を覚える
- 感動を覚える
「憶える」が使われるシーン(文学的・感情寄り)
- 彼の言葉を今でも憶えている
- ふるさとの風景が脳裏に憶えている
- 幼少期のことを憶えて泣きそうになる
つまり、「明確な記憶」「技術・知識の習得」→「覚える」
「ぼんやりとした感情・印象」「情緒的な記憶」→「憶える」
という使い分けが基本になります。
実例で見る「覚える」と「憶える」の違い
以下に、具体的な例文とその意味の違いを比較してみましょう。
文 | 使用漢字 | ニュアンス |
---|---|---|
先生の名前を覚えています | 覚える | 正確な記憶として記憶している |
幼い頃の思い出を憶えています | 憶える | 感情や情景が残っている |
操作方法を覚えてください | 覚える | 技術を身につける |
初めて会った日の気持ちを憶えています | 憶える | 感情的な記憶として |
※どちらを使っても意味が通じるケースもありますが、「どのような記憶か」によって選ぶ漢字を変えると、より深く伝わります。
ビジネスや日常での使い分けのポイント
ビジネス文書では「覚える」が無難
業務マニュアルや研修資料など、明確な理解や習得を求める場合は「覚える」が一般的です。
「このルールは必ず覚えておいてください」
文学・創作・表現を豊かにしたいときは「憶える」
詩的な表現や小説などでは、情緒的な記憶を「憶える」で表すことで、文章の深みを増すことができます。
「あなたと過ごしたあの夏を、私は今でも憶えています」
日本語学習者に向けた補足
日本語を学ぶ外国人にとって、「覚える」と「憶える」は特に混乱しやすいポイントのひとつです。
- 学校教育では「覚える」だけ習うケースが多い
- 常用漢字では「憶える」は含まれない(「憶」は準1級程度)
- 会話では基本「覚える」だけで通じる
したがって、まずは「覚える」だけ使いこなせれば十分です。
より高度な表現として「憶える」を学ぶのが自然なステップです。
まとめ:「覚える」と「憶える」の違いを使い分けよう
ポイントまとめ
- 「覚える」は、知識・技能・感覚・感情を広くカバーする一般的な漢字。
- 「憶える」は、感情的・情緒的・印象的な記憶に使う、やや文学的な表現。
- 現代日本語では「覚える」が圧倒的に主流。
- 微妙なニュアンスや気持ちのこもった文章では「憶える」を使い分けると表現力が高まる。
迷ったら?
基本は「覚える」でOK。
感情や思い出、印象を大切にしたい時だけ「憶える」を選びましょう。
もっと詳しく知りたい方は此方のリンクを参照してください。
- 「覚える」と「憶える」の適切な使い方:その微妙な違いを明らかに
「覚える」は記憶するだけでなく、技能や知識の習得、感情を抱くなど多義的に使われます。一方、「憶える」は純粋に記憶する行為に限定されます。具体的な使用例とともに、両者の違いを詳しく解説しています。
https://word-chi.ryu-bow.com/1449.html (「覚える」と「憶える」の適切な使い方:その微妙な違いを明らかに)